本作はこれまでオーディエンスがU2に抱いていた期待をことごとくくつがえし、これでもかというくらいに裏切っている。世界で最もシリアスなロックバンドが発表した本作は、広告のパロディー、プリンスの模倣(もほう)、ガールズ・グループへの敬意、金持ちの少女へのあざけり、真正直なラブソングといった要素に彩られている。

 ・ amazon music : Zooropa

 ・ Google Play Music : 07. Zooropa (1993)

 ・ レコチョク Best : 07. Zooropa (1993)

 ・ Spotify : 07. Zooropa (1993)

冒頭のタイトル曲では、広告風のスローガンとシンセサイザーにより、近未来のヨーロッパが共通の文化を見つけるさまに視点が向けられている。「Daddy’s Gonna Pay for Your Crashed Car」のテーマは、ボブ・ディランもかつて「Like a Rolling Stone」で歌っている。ここで焦点が当てられているのは、甘やかされて育った金持ちの少女が、特別扱いされてきた人生によって生きる力を奪われていたことに気づく姿である。ボノはディラン風にせせら笑うように歌い、エッジのギターとミューレンのパーカッションは交通渋滞の喧騒(けんそう)にも似た音を響かせ、クレイトンは偏頭痛を思わせる挑戦的なベースラインを脈打たせている。これとは対照的に「The First Time」は正真証明U2がこれまでレコーディングした中で最高と言えるロマンチックなナンバーである。けれども、このアルバムの一番の驚きであり痛快なナンバーはR&Bに傾倒した2曲「Babyface」と「Lemon」である。肥大しすぎたロックスターたちにとって、ダンスパーティー音楽の原点への回帰ほどふさわしいプレゼントはないだろう。本作は完全に満足いく出来とは言えないが、世界で最も賞賛され最も野心的なバンドのひとつであるU2が、これまでまったく見せなかった予想外の一面を披露している。(Geoffrey Himes, Amazon.com)